第二十回 コーヒー業界の近年の動き

コーヒーの世界の新しいキーワードとして「フルーティー」という言葉をあげた。
やはりこのキーワードが現在のコーヒー界のトレンドなのだろう。

 

いま、日本で注目されているコーヒーはゲイシャ種と言われるコーヒー。
ブルーマウンテン、ハワイコナに次ぐ高級コーヒーとして知名度が上がりつつある。
これはエチオピアのゲイシャという地域で発見されたコーヒーの品種で、コーヒーの原生種に近いそうだ。
このコーヒーの特徴として、やはりジュースのような酸味とフルーティーな香りが身の上だ。
もちろん焙煎の方法にもよるが、フルーティーさを演出するために全体的に浅煎り(浅煎りのコーヒーは酸味が増える)傾向になってきている。

 

なぜこういった動きをしているかというと、1990年代前半で「スターバックスコーヒー」や「タリーズコーヒー」などといったエスプレッソスタイルの店が流行した。
いままでの自家焙煎店や既存のチェーン店にはない新しさ。スタイリッシュさ。
エスプレッソバーへ行くということがなにやら知的な行為と思われ瞬く間に日本中に広がった。
それまではエスプレッソなんかメニューの片隅に押しやられていたのが、どうどうと一番最初にのり、知名度もぐんとあがった。
こうしたエスプレッソの文化とともに、新しい価値観のコーヒーの基準として、スペシャリティーコーヒーという概念が広がった。

 

それまでは「ブラジル」ならば「ブラジル」だったが、「ブラジル ○○農園 ブルボン種 ウォッシュ精製」などと地域、農園、品種、精製方法と細かくコーヒーを価値づけをしていく。
まさにワインの世界をうまく取り込んでより高次の嗜好品へと進化しようとしている流れにあります。
こうした流れの中でコーヒーの美味しさを決める要素として「酸味」が重要なものとして考えられていて「フルーティー」さがどうやらコーヒーの最高の価値として位置づけをされ始めているのが、近年のコーヒー界のフルーティーブームの源流だろう。

 

以前からの苦く香ばしいコーヒーはどうなってしまったのかというと、これはもしかしたら少数派になりつつあるのかもしれない。
苦いコーヒーであれば今やエスプレッソバーへ行きエスプレッソを注文すればそれを楽しむことが出来る。
昔ながらの自家焙煎店の苦いコーヒーは今の流れでいうと衰退にあるのかも知れない。

 

しかしフルーティーさは酸味や香りにある爽快さや明るさといったものは表現できても、苦味にある深い味わいというのは表現できない。
やはりフルーティーさの酸味にはその良さがあり、苦味には苦味なりのよさがある。
スペシャリティーコーヒーの価値付けがこの先10年で一巡して(もうそれは終わったという見方もある)、今後はそれぞれのコーヒー店の表現力の時代だと思う。
ゆえに、当店としては新しい流行を押し付けるのではなく、昔ながらの苦いコーヒーや、同時に現代的なフルーティーなコーヒーも同じように豊かな表現力で提供していきたいと当店では考えている。
嗜好品としてのコーヒーなのでさまざまなニーズに答えて行くことが、「喫茶」する場所としての役割だと思う。